■進化を生み出す湖〜トウティ、マタノ〜

250万年前にスンダ棚(アジア大陸)とサフル棚(オーストラリア大陸)が衝突し、海が挟まれるような形で陸に取り残された。
そしてその湖が長い年月をかけ塩分が雨水により中和され、湖に生息する生物が独自の進化を遂げたのがスラウェシ中央部の湖で、その生物の祖先は海の生物だったとされる。

スラウェシ中央部の湖があるのはマタノリザーブ自然公園内で、3つの独自の進化を遂げた湖が存在する。その中で一番大きいのがDanao Towuti(トウティ湖)、Danao Matano(マタノ湖)、そして森の奥に隠されるように存在するDanao Mahalona(マハローナ湖)がある。しかしまだ奥には人知未開のDanao Wawontoa、Danao Masapiという地図にもなく、現地人でも存在を知らないような小さい湖もあるが、その存在はあくまでもデータ上でありあまり公にはなっていない。またこの地域に確認されているだけで魚類20種、貝類12種、植物7種が固有種として存在する。
標高は比較的高く500m前後で通念を通して比較的涼しいのもこの地域の特徴で湖の水温も26〜20℃とかなり冷たい。

また、この地域は人を死に至らしめる淡水性の寄生虫、ビルハルツ住血吸中の汚染地域である。 ビルハルツ住血吸虫の中間宿主はカワニナのような淡水巻貝で、人の皮膚や粘膜から侵入し膀胱静脈叢に寄生する。
ビルハルツ住血吸虫は同じようにアルカリ質で淡水巻貝の多いアフリカのマラウイ湖などでも見られる最も恐ろしい寄生虫の一種であり、この湖にも中間宿主の貝が非常に多く生息している・・。現地でも泳いでいる人はいない・・(焦)。
寄生虫で体の変形がおきている村人がいないか、鼻の粘膜に湖の水を吸い込まないように注意し、自分の体調で血尿が出ないかと重ねて細心の注意を払いながらの調査となった。
基本的にスラウェシの湖で泳いではいけません・・と日本の外務省は言っています。

■Danao Towuti〜トウティ湖へ行こう〜

ダナオ・トウティはこの3湖の中では一番大きな湖で、一部の生物が日本に紹介されている為名前だけを知っている方は多いのではないだろうか?しかしその生態についてはデータがほとんどないため今回私が力を入れた場所の一つである。
水質はPH9,5という超強アルカリで超硬水。カルシウム分が高いが塩分は全くない真水である。
湖で一番の優先権を持つ生物はシアノバクテリアであり、水草などの植物の優先順位は決して高くないが、シアノバクテリアの働きにより湖の溶存酸素量は高い。
オーストラリア西部の海のような、非常に原始的なサイクルを続けているのがこの湖のサイクルである。

→トウティ湖畔にある村からは大量の雑排水が流れ込むため湖の水質悪化に寄与しており、クロモシャジクモなどの富栄養化した湖を好む植物が一面を覆い尽くしている。

■いざ湖へ

湖畔の町で写真を撮っていたら、いろいろな村人がやってきてインタビューを受けているうちに、エビのシッパーをやっている村人と仲良くなった。自宅に奇麗なエビがいるということで色々とエビ接待を受けていたら話の流れでその人に船を借りることになった。ガソリン込みで半日2500円。
お弁当を買いこみいざ湖へ出発だ、↓マイカパル(自分用船)をゲットして水上でも傍若無人にやりたい放題。

村の周囲はかなり汚かった水が、船を走らせるほど透明度を増し透き通ったコバルト色の水になっていく。
水生生物の多く生息する地点に向かってもらい生物の生態を見ることになった。

湖を渡る風は涼しく爽快だ。

ふと横を見るとGraphium Androcles(オオオナガタイマイ)が横切る。どうしても写真を撮りたかった美しい蝶だが、静止してくれなければお手上げである。
早くもトウティ最高!グラフィウムたくさん。


■トウティ湖の水生生物

住血吸虫に感染しないよう細心の注意を払い、いざダイビングを開始する。水温が低いため20分以上は潜っていられないほど寒い。
水は恐ろしく透明で、魚たちが人間を恐れることなく泳いでいる。海水魚を連想させられるレインボーフィッシュの一種やゴビー、甲殻類などを見ることができる。
また、タウナギの一種も見ることができた。
■オテリアメセンテリウム

水深4〜5メートルほどの深く、水の冷たい場所にはオテリアメセンテリウムがパッチを作っている。
メセンテリウムはミズオオバコのオテリアの仲間でありながら非常に特殊でほかのオテリアの常識は全く通用しない独自の植物である。
海藻が進化したかのような姿のようであり、溶け具合や臭いなども淡水性水草よりは海藻に非常に近い。

草体の中心部には丈夫な塊根を持ち、しっかりと湖底に深く根を張り巡らせている。
また他のオテリア種と根の形状が全く異なり根に栄養分を蓄えている傾向にあるが、実際にそれが植物体にどれだけの重要性があるのかは不明。



さすがに深くて長く潜水していられない。潜って構図決めて、自分が静止、設定決め→ピント合わせ→シャッターはかなりの苦労だ。
潜水するだけでも大変な水深4メートルの水圧と戦いつつ、ワンショット撮影するのに非常に激しいアクションを起こしている。
■〜トウティ・ビューティー〜美しきエビの生態

ここは様々なエビが多く生息しているポイントで、水深は3〜4メートルの場所である。
比較的水のきれいな場所であればどこにでも見られるがここは特に密度が多い。
強アルカリで水草の少ないトウティのエビは石の下に生息しており、エビの主食は茶色くゴミのように見えるシアノバクテリアを好む。
■→右の画像には3〜4匹のエビが見える。写真だと分かりにくいが実施には触覚がゆらゆら動いているので一目瞭然である。
それにしても4メートルまで潜水後、石ひっくり返してエビを探しながらカメラを構えるのは息が続かない
■↓白いヒゲのようなものはエビの触覚の部分。

■Udang kecil Merah
トウティに生育する中では一番美しいとされるエビ。
普段は岩の下に生育し、大きな岩をどけるとその下に群生していることが多い。
また、比較的深いほうを好む傾向にある

■Udang kecil Biru
トウティに多く生息するUdang kecil Biruはトウティに生育する数多くの魚を養っている縁の下の主役だ。 トウティの魚の多くはエビを主食としているようである。
この種類は流線型でかなり素早くアクティブに泳ぎ回る。
卵塊を持っているMerah。
■↑内臓や卵がエメラルドグリーンになる面白いエビ。

→■Udang kecil Towuti
トウティ代表する模様のエビ。比較的数多く生息しており、小さいながらもその美しさから存在感がある。
白とオレンジの手を動かしながら水中のバクテリアを器用に食べている姿がなんともユーモラスで、そのかわいらしい彼らを撮影をしていると私も自然と顔がほころんでしまう。
比較的浅い場所から深い場所までまんべんなく生息しているようだ。
↑■Udang kecil Karang
更紗(さらさ)模様がとても美しいタイプのエビ。まるで隠れエビのような美しい模様だ

→■トウティのエビはこのような場所を好む。
基本的に彼らは岩の下にいるのである。


マタノ湖へ続く
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